技とこころ 岩本 泉治さん技とこころ 岩本 泉治さん

心に迫る神秘の風景を遺し、伝えるのが使命。 INTERVIEW 01 岩本 泉治 さん心に迫る神秘の風景を遺し、伝えるのが使命。 INTERVIEW 01 岩本 泉治 さん

修験者のサポートをする山伏は山のエキスパート修験者のサポートをする山伏は山のエキスパート

吉野の森は、大峯奥駈道(おおみねおくがけみち)に代表されるように、古くから山岳修行の場として多くの行者(ぎょうじゃ)が訪れる場所でもあります。奈良山岳ガイドの第一人者である岩本泉治さんは、昔から大峯奥駈修行をする行者たちのサポートをしてきた山伏(やまぶし)の家に生まれました。冬籠もり(ふゆごもり)の厳しい行場(ぎょうば)として知られる笙の窟(しょうのいわや)が、岩本家のある上北山村・天ケ瀬集落の担当区域だったと言います。また、かつては山の動植物で薬を作ったり、種類によって異なる木材の利用方法を里人に教えることも、山伏の大事な役割でした。つまり、山伏は山のことを知り尽くしたエキスパート。岩本さんも祖父に連れられて4歳半から大峯に登り、植物や動物など山のあらゆることを教えこまれてきました。

雨が育てた険しくも神秘的な森の風景が心に作用する雨が育てた険しくも神秘的な森の風景が心に作用する

そんな山のエキスパート・岩本さんが語る吉野の森とは、一言で言うと「雨が育てた森」。杉や檜が立派な大木に育ち、美林を形成しているのも豊富な雨量のおかげです。そして、雨によって山が削られてできた崖、湿潤な森の中に沸き立つ霧。その険しくも神秘的な風景は、人の心に作用し、修験者たちの修行をも助けてきたのではないかと、岩本さんは語ります。「大峯が日本髄一の修験道(しゅげんどう)の聖地となったのも、雨がつくりだすこの異世界のような深い森の中でこそ、体得できるものがあったからなのです」。そのため、行者が歩く周辺は木を切ることが禁止されており、上北山村と天川村には今も針葉樹がうっそうと繁る原生林が残されています。

人々が崇め大切にしてきた自然を感じてほしい

人々が崇め大切にしてきた自然を感じてほしいかつての森の姿を取り戻し次世代に受け継ぐために

現在、岩本さんは、主に一般登山者を案内する山岳ガイドとして活動しています。とはいえ、岩本さんにとっては、山岳ガイドも山伏の一形態。行者をサポートする山伏であっても、一般登山者を案内する山岳ガイドであっても、根底にある「吉野の森を守り、訪れる人に自然のエネルギーを感じてもらいたい」という思いに変わりはありません。また、岩本さんは神主でもあります。神主は空間を崇め、場を清浄に保つことが仕事です。「ですから、山伏でもガイドでも神主でも、やることは同じ。自然そのものを崇拝し大切にする文化と、人々の心に影響を与えてきた吉野の森を守り、伝えていくことが、私の一生の仕事だと考えています」と語ります。

かつての森の姿を取り戻し次世代に受け継ぐためにかつての森の姿を取り戻し次世代に受け継ぐために

ただ、「この半世紀ほどで森は激変してしまった」と岩本さんは言います。要因の一つは、人が狩りをしなくなったこと。それによって猿や亥、鹿が増え、植物を食べてしまうために森が崩壊の危機に瀕しているのです。かつての森の姿を取り戻すため、岩本さんは希少植物の周りにフェンスを張って絶滅危惧種を保護する活動も行っています。加えて、山歩きの技術だけでなく、森のすばらしさを感じてもらえる“おもてなし”のできるプロガイドの育成にも力を入れています。岩本さんのガイドを一度経験した人は、吉野の自然に魅了され、ほとんどがリピーターになるのだそう。「次はこうした活動を次世代に広げていくことが大切」と岩本さん。その輪は今、少しずつ広がってきています。

岩本 泉治 さん

岩本 泉治 さん

心に迫る神秘の風景を遺し、伝えるのが使命。

1955年上北山村生まれ。4歳半から祖父に付いて山に入り、山の教えを受ける。家業の林業に携わった後、県庁職員を19年務め退職。NPO法人森と人のネットワーク、奈良山岳自然ガイド協会、よしくまプロジェクトを設立し、吉野の自然を知ってもらうための様々な活動を展開。

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